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次世代エネルギー 核融合(後編)

世界をリードする日本の技術

image この記事は後編です。
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次世代エネルギー 核融合(前編) 地上に太陽を再現できるか?

日本の実験炉JT-60SA

image 日本唯一のトカマク型超伝導プラズマ実験装置であるJT-60SAは、2013年1月に建設が始まり、2020年3月に真空容器の組み立てが完了しました。JT-60SAの炉の大きさは高さが16メートル、幅20メートル、重さは2600トンもあります。
JT-60SAの大きな役割は、①実験データを集積し、科学的な面においてITERの目標達成を支援すること、②原型炉(実際に発電を行なったり、経済性についての見通しを立てたりするための実験炉)の建設に向けた研究を行なうこと、③ITERをはじめとする核融合研究分野で活躍する人材を育てることなどです。
JT-60SAは2023年10月23日に、超伝導コイルを使った大型実験施設として世界ではじめてプラズマの点火に成功しました。また2024年9月にはJT-60SAのプラズマ体積が160立方メートルを記録し、世界記録として登録されるなど、着々と成果を出しつづけています。
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プラズマ生成時の映像(QST提供)

大きさの理由

JT-60SAは、現在建設が進んでいるITERのプラズマの半径(ドーナツの穴の中心までの距離、主半径)6.2メートルのほぼ半分の3.0メートルですが、ITERとほぼ同じ構造でつくられています。
一方、両者で異なる目的もあります。ITERではエネルギー増倍率が10を超えた燃焼プラズマ状態を実現し、その特性を調べることを大きな目標としています。また長時間運転に関して研究開発を行なう予定です。
一方、JT-60SAでは、ITERよりもプラズマの圧力を高くし、小型の炉でより高い核融合出力を得られることを目標のひとつに掲げています。つまり、JT-60SAは設備の建設・維持コストを含めた経済性を探求していると言えます。
核融合炉の大きさについては、大きい炉であるほうが高温高密度のプラズマがつくりやすく、プラズマが大きければ実験を行ないやすいとされています。
そのため、今後、原型炉や商業炉をつくり、十分な発電を起こすためには、炉をITERより大きくしなければならないとの見方もありましたが、大型化する分、ものづくりの困難さが増し、開発にも時間が掛かるため、現在、炉の大きさをITER程度にした場合にどのような核融合炉が実現可能かの検討も行なわれています。
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JT-60SA俯瞰写真(QST提供)

世界をリードする日本の技術

JT-60SAの建設には40社以上の日本企業が関わっており、日本の最先端技術が結集しています。
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・プラズマを宙に浮かせる巨大超伝導磁石
ドーナツの穴を上下につらぬく柱状の「中心ソレノイドコイル」と、ドーナツの上下と外周に配置された円形の「ポロイダル磁場コイル」は超伝導技術を得意とする日本企業が製造しました。
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真空容器の内部(QST提供)

・高精度での巨大機器製作
プラズマを制御するためには、コイルの寸法や配置に、1万分の1程度の誤差しか許されないとされています。JT-60SA部品は数メートル〜10メートル程度の大きさなので、その1万分の1、つまり、ものによっては1ミリメートル以下の誤差しか許されません。JT-60SAは、10メートル級の超伝導コイルの高精度での組み立てや設置に、世界ではじめて成功しました。
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・プラズマを加熱する装置(中性粒子ビーム加熱装置、高周波加熱装置)
日本は高電圧を扱う加熱ビーム装置の技術においては世界トップレベルを誇ります。電圧を交流から直流に変換し、直流で50万ボルトの電圧をつくり、ビームを加速します。そのため、その高電圧を絶縁しビーム源まで伝送する技術も必要で、この高い電圧での実績があるのは日本だけです。
また、高周波加熱装置についても、日本企業が製作した高周波を発信する機器「ジャイロトロン」が優れていて、発信効率が良く、またロスが少なく、長時間安定に出力できる性能を有し、日本の実績は世界でも高く評価されています。
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青い部分が「中性粒子ビーム入射加熱装置」

研究者インタビュー

JT-60SAとITERの開発に携わる柏木美恵子さん(QST 那珂フュージョン科学技術研究所 トカマクシステム技術開発部 次長)に、核融合研究に携わるようになったきっかけや今後の展望、日ごろ大切にされていることなどを伺ってみました。
image ーー学生時代の研究内容は?
はじめはプラズマの研究室に入りました。大学生の時にプログラミングの授業で、全くついていけず、これからの時代これではダメだと思い、苦手克服のため、プログラミングができる研究室に入ったら、プラズマの研究室でした。
たまたま指導教官が核融合研究にも接点があって、ビーム関係に近いプラズマのシミュレーションなどを研究しているうちに、次第にシミュレーションだけじゃなく、実験がしたいと思い始め、QSTのポスドクを受けました。
人間は近い将来に宇宙に行くと確信していて、そのときに発電はどうするんだろう?と考えていて、エネルギー開発に関心があったというのも背景にあります。

ーー核融合研究に興味をもったきっかけは?
QSTでビームの研究をされている方が大学に講演に来てくれたことです。そのときに、核融合について初めて学び、様々な分野と接点があるのだなって思って、興味をもち、まず実験炉へ見学に行こうと思いました。実際に核融合炉を見たときは装置の大きさに驚いた記憶があります。
大学院に入ったときに、核融合炉の周辺技術の方とも共同研究をさせてもらい、色々なテーマがあることを知り、面白さを実感しました。
イギリスのオックスフォード近くにあるカラム研究所のサマースクールにも参加しました。カラム研究所にはジェットという核融合実験炉があって、世界中から留学生たちが集まっていました。そこで「あなたが日本からの初めての参加者だ」と言われました。そのときに(日本の大学の)指導教官に助言されたのは「英語がわからなくても、なんでもいいから1時間に1回は質問しろ」ということです。もし留学などのチャンスがあれば、経験してみると視野が広がって、自分を助けると思います。
就職時は、「ずっとシミュレーションをやっていたので、実験がやりたいです」と言ってQSTに応募しました。
学生さんには色々な場所に出掛けてみていただいて、何が自分に合うのか見つけて、いい出会いを探していただくことが大事だと思います。

ーー柏木さんの今後の展望を教えてください。
もちろん、JT-60SAをちゃんと運転して、データを取れる装置にするというのが最大の目標です。また、原型炉や商業炉の実現を含めて、皆さんに注目されているので、その負託に応えたいと思っています。
原型炉と商業炉に向けて何が大事かというと、やはりメーカーさんの力だと思います。ものづくりの力が大事です。環境問題などの様々な課題に展開できるような面白い技術を発掘してメーカーさんにもどんどん参入してもらうようにならなくてはとも思っています。最終的には核融合発電を実現したいと思っていますが、メーカーさんも巻き込んで、小さくても面白い技術にも取り組んでいきたいです。

ーー柏木さんが日ごろ大切にされていることを教えてください。
人との接点で刺激を受けながら、少しでもみんなのために、みんなが何かをするために働き続けようと思っています。
プロジェクトの交渉がうまくいかない、費用面でうまくいかないなど、色々な課題にぶつかった時、知恵を絞って、手を打つわけですけれど、ふと「なぜ私はこんなに働いているのだろう」と思うことがあります。そんなときには、結局は「ここで私が頑張ってやりきったり、アイデアを出したりするとみんなが助かるな、そうやってプロジェクトが進むんだな」と思って、乗り切っています。

ーー進路やキャリアに悩む方へ向けてアドバイスをください。
悩む時期はちょっとでも心に引っかかったことに足を踏み入れて、やってみるといいと思います。
そうすると、だんだん専門性が培われてきますし、本当に具体的にやりたいことがそこからみえてくると思います。
那珂研究所でも、六ヶ所村研究所でも、施設公開もしていますので、ぜひそういう機会に足を運んでいただくことも大事です。夏季実習の制度もあるので、学生の間にぜひ体験していただくといいと思います。最近は、理系の女子高校生が集まる合宿もあります。
人生プランをどうするかを悩むこともあると思いますが、自然な流れに任せるのがいいと思います。いつどこで大変なことをクリアするかだけですし、クリアするとすべてが人生の糧になって、その後は経験が増えるだけです。
いろんなことに躊躇せず、やりたいことはどんどんやったとしても、どこかで苦労しますけど、全部乗り越えられると思います。時機を待てばできるわけではないから、躊躇せずに、やりたいことがあったらできるように工夫することを考えた方がいいですよ。

エピローグ

2025年2月、政府は原型炉の建設計画も当初の予定より5年以上前倒しし、2030年代には始める方針を明らかにしています。原型炉や商業炉の稼働もそう遠い話ではないかもしれません。

取材協力
量子科学技術研究開発機構(QST)那珂フュージョン科学技術研究所

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