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次世代エネルギー 核融合(前編)

地上に太陽を再現できるか?

image “人工太陽”ともいわれ世界中で大きな注目が集まる「核融合発電」。技術の進歩や国際的な競争により、長い間「夢物語」とみなされてきた核融合発電の実現もより一層現実的になってきました。 image
那珂フュージョン科学技術研究所(QST提供)
今回は、茨城県の那珂市にある量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所を取材し、研究に携わる柏木美恵子さん(同研究所 トカマクシステム技術開発部 次長)に、暫定世界最大(※)の核融合実験装置であるJT-60SAや今後の展望などについて伺いました。
※フランスで建設中のITERが完成するまでは世界最大

核融合とは

核融合は、二つの軽い原子核(通常は水素の同位体である重水素や三重水素)が高温高圧の環境で衝突・融合して、衝突前とは別のより重い原子核になる反応です。
私たちの身の回りのものはすべて原子からできています。原子の中心にあるのが、プラスの電気を帯びた原子核です。その周囲にはマイナスの電気を帯びた電子が取り巻いており、普通はこの電子がじゃまをして原子核同士が衝突することはありません。しかし、「特殊な状況」にして原子核を衝突・融合することができれば、莫大なエネルギーを放出させることができます。このエネルギーを発電に利用するのが核融合発電です。
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実は太陽の中心でも核融合が起きています。太陽の中心部は極端に高温(約1500万度)と高圧(2400億気圧)の環境になっていて、水素原子が高速で衝突しています。この衝突によって、四つの水素原子核(陽子)が結合し、一つのヘリウム原子核と陽電子2個とニュートリノ2個が形成されます。核融合反応が進む際に、質量がエネルギーに変換されます。
このエネルギーと質量の関係を説明するのがアインシュタインの有名な方程式E=mc2です。Eはエネルギー、mは質量、cは光速をあらわしています。光速の2乗は非常に大きな数値であるため、わずかな質量でも膨大なエネルギーを生じることがわかります。重水素と三重水素の原子核が融合するとヘリウムの原子核と中性子にかわります。この反応が起きると全体の0.4%分の質量が少なくなります。このときに消えた質量に相当するエネルギーが放出されるのです。
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太陽中心部の核融合反応によって放出されたエネルギーは宇宙空間を伝わり、光や熱として地球に届いています。こうした原理を使用することから、核融合炉は人工の太陽とも表現されます。

核融合発電のメリット

核融合発電の最大のメリットは少ない燃料で非常に大きなエネルギーを得ることができることです。核融合発電の燃料(重水素と三重水素の混合物)1gから得られるエネルギーは約10万MWh以上で、原子力発電の燃料(ウラン235)1gから得られるエネルギーは約2万4000MWhなので、原子力発電の約4倍が得られます。ちなみに火力発電では石油8トンを燃やしてようやく10万MWhのエネルギーが得られるとされています。核融合発電は、再生可能エネルギーが苦手とする大規模発電が可能で、しかも、火力発電のような二酸化炭素の排出もありません
また、核融合発電の燃料となる重水素は海水から得られるので実質的に無尽蔵三重水素は核融合発電の過程でつくりだすことが可能です。日本の電力供給の約70%を担うのは火力発電ですが、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料は海外からの輸入に頼らざるをえません。国内のエネルギー自給率が低く、海外からの輸入ばかりに頼っていると、国際情勢の影響を受けやすくなります。核融合発電が実現すれば、日本が抱えるエネルギー問題を解決できるかもしれないと期待されています。

原子力発電との違い

核融合発電と同じく原子核同士の反応を用いる発電に原子力発電があります。原子力発電は「核分裂反応」を利用します。核分裂とは、重い原子核に高速の中性子が衝突すると原子核が不安定になり、分裂して二つ以上の軽い原子核に変わる反応で、この分裂の際に大量のエネルギー(熱)が放出されます。分裂の際に2~3個の中性子が発生するため、これらは別の原子核と衝突して、連鎖的に核分裂反応が起こることになります。この連鎖反応が暴走しないように制御しないと甚大な事故を引き起こす可能性があります。
一方、核融合発電では、燃料である重水素と三重水素の供給を止めれば、反応自体が止まるため、暴走は原理的にはおきないとされています。
放射性廃棄物の問題においては、原発と核融合炉のどちらも放射性廃棄物は出ますが、原子力発電で生じる高レベルの放射性廃棄物は、核融合発電では発生しません
核分裂と核融合を区別するため、核融合エネルギーは「フュージョンエネルギー」とも呼ばれています。

特殊な条件「プラズマ状態」

太陽中心部で起きている現象(核融合)を人工的につくるにはどうすればいいでしょうか。答えはプラズマ状態にする、です。しかし、そのプラズマをなんと1億℃以上にしなければなりません。太陽中心部の温度は約1500万度なのですが、圧力が約2400億気圧もあります。地球の大気圧は1気圧であり、太陽と同じような気圧を再現することはできないため、核融合を起こすための条件を満たすためには超高温にしなければならないのです。プラズマを高温な状態で長時間安定させ、さらに反応速度を高めるためにも、より高い温度が求められるのです。
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発電の方式と流れ

核融合のエネルギーの実現に向けて、代表的なものとして二つの方式の開発が進められています。一つは「磁場閉じ込め方式(トカマク式)」、二つ目が「慣性閉じ込め方式(レーザー核融合)」です。
超高温にしたプラズマは、通常の物質を瞬時に溶かしてしまいます。プラズマを閉じ込める炉をどんな物質でつくったとしても炉壁が損傷する可能性もあります。そしてプラズマが炉壁に接するとプラズマが冷却され、核融合反応が止まってしまう恐れがあります。こうした理由から、物質に触れずにプラズマを保つ方法として、磁場で閉じ込める手法が考えられました。地球の磁場は、太陽から流れてくる太陽風や宇宙からの放射線などの有害な粒子から地球を保護し、大気を保持し、生命を守っていますが、こうした磁場の働きを活かす方法が「磁場閉じ込め方式(トカマク式)」です。核融合炉の磁場は、超伝導コイルなどの人工的な手段で生成されます。
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一方、慣性閉じ込め方式では基本的には磁場の力は使いません。その代わりにレーザーや粒子ビームなどの高エネルギーを使って小さな燃料ペレットを圧縮し、高温高圧にして核融合反応を引き起こします。

〈トカマク式の核融合発電の流れ〉
①燃料供給
核融合炉に燃料が、固体と気体またはガスの形で供給されます。
   ↓
②プラズマ生成
コイルを用いた電磁誘導、レーザー、または電磁波などを用いて、燃料をイオン化し、電子とイオンに分離される「プラズマ」をつくります。
   ↓
③プラズマの加熱と磁場による閉じ込め
プラズマを高温に維持するために、中性粒子の注入や高周波数の電磁波(高周波加熱)などによって追加の加熱が行なわれます。
   ↓
④核融合反応
プラズマが十分に高温に達すると燃料の原子核が核融合反応を起こし、ヘリウムと中性子が生成されます。
   ↓
⑤エネルギー変換と発電
高エネルギーの中性子が炉壁に設置されたブランケットに吸収され、これによって中性子が減速されて、熱エネルギーに変換されます。生成された熱は熱交換器を通じて冷却水に伝えられ、蒸気が発生します。この蒸気でタービンを回し、発電機を駆動して電力が生成されます。

核融合発電実現までの道のり

地球上で初めて核融合が行なわれたのは1934年のことでした。粒子加速器を使用して達成されましたが、この方法ではほとんどの粒子が融合せずに散乱し、エネルギーが失われてしまっていました。核融合を維持し、高いエネルギー出力を得るためには、燃料の大部分を超高温に加熱する必要があることがわかりました。
1950年頃にロシア(旧ソ連)の研究者によってプラズマを磁気容器の中に閉じ込める実験が考案されました。しかし、このころは磁場によるプラズマの制御は困難とされており、期待するほどの成果は得られませんでした。
1968年になり、旧ソ連で行なわれたT-3トカマク装置の実験が成功し、核融合研究は大きく進展しました。1980年代には各国で大型トカマク装置が建設され始めました。
日本でも1960年代から核融合研究が世界の研究者と協同して行なわれるようになり、1972年には日本にJFT-2というトカマク型の装置(西側諸国での本格的なトカマク装置としては初)が建設されました。
1985年に米ソ首脳会談が行なわれ、次世代のエネルギー開発として核融合エネルギーの科学的・技術的実現性の実証のため、国際協力で研究開発を進めることが決まり、アメリカ・ロシア・ヨーロッパ・日本共同の国際協力プロジェクトITER(イーター)計画がはじまりました。その後、中国・韓国・インドも加わり、壮大なプロジェクトへと変化を遂げました。
1985年、日本のトカマク型試験装置JT-60が完成し、エネルギー増倍率(投入したエネルギーに対して、核融合で得られるエネルギーの比率)の世界記録1.25を達成。プラズマを長時間安定して維持し、連続的に核融合反応を行なう方法(定常運転方式)の開発を通して、ITERの設計に大きく貢献しました。
ITERは、2007年からフランス南部でサイト建設が始められ、2025年現在、トカマク装置本体を建設中です。ITERは2034年に研究運転を開始する予定です。
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JT-60とその一部が改修されたJT-60U(1996年に最高温度5.2億度を達成)は銅コイルが用いられていましたが、2012年に解体。銅コイルに代わってより強い磁場をつくることができる超伝導コイルを用い、プラズマの安定性を高める制御装置を豊富に装備し、ITERと並行して進めることとなった日欧共同事業「幅広いアプローチ協定」のサテライトトカマク計画として、建設された試験炉が、JT-60SAです。
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JT-60SA(QST提供)
ITERやJT-60SAなどでの研究は、今後原型炉や商業炉の開発に活かされます。青森県六ヶ所村にある「国際核融合エネルギー研究センター」では原型炉の開発に向けた研究が行なわれています。

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    次世代エネルギー 核融合(後編)世界をリードする日本の技術

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