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未来を創る企業 × 学生 #1
ホンダジェット技術者インタビュー(前編)「人が空を飛び、より短時間で効率的に移動できる未来に貢献したい」
HACI 飛行試験エンジニア・荻原 凱さん

ビジネスジェットで世界をリードするHondaJet(ホンダジェット)。本田技研工業(以下、ホンダ)の航空機事業子会社、米国ホンダ エアクラフト カンパニー(以下、HACI)が開発・製造販売している小型ジェット機です。

主翼上面にエンジンを配置した革新的な機体デザインが特徴で、これまでに累計で250機以上がデリバリー(2024年11月時点)され、世界中で人気を博しています。

今回、HACIの飛行試験エンジニアとしてホンダジェットの技術開発に携わる荻原 凱さんに、航空機業界を目指す大学生がインタビューをしました。

米国HACIに勤務する荻原 凱さんには、オンラインでの取材にご協力いただきました。

未来を創る企業 × 学生シリーズでは、前編で企業の先進技術の舞台裏を紹介し、そこに関わる技術者・研究者のキャリアストーリーや学生に向けたメッセージを後編でお届けします。
インタビュー後編:https://moov.ooo/special/newtonhub/article/02/


飛行試験エンジニア 荻原 凱(おぎはら がい)
1992年、神奈川県生まれ。
米国ワシントン大学で航空宇宙工学 学士号、スタンフォード大学大学院で航空宇宙工学 修士号を取得。修士課程在学中の2016年にHACIでインターンを経験後、2017年に同社入社。現在は飛行試験エンジニアとしてホンダジェットの技術開発に携わる。自家用操縦士免許 ・計器飛行証明を保持。趣味は小型機の操縦に加え、登山、ランニング、旅行など。


学生インタビュアー 平 光貴(たいら こうき)
2004年、神奈川県生まれ。
早稲田大学基幹理工学部応用数理学科2年。将来はパイロットを目指し、現在は大学の航空部でグライダー(上級滑空機)による150回以上の飛行を経験。小型船舶操縦士免許を持ち、趣味は車・グライダー・小型船を操縦すること。

常識を打ち破った、主翼の上に配置したエンジン

image 出典:ホンダ提供画像(HondaJet Elite Ⅱ)

一般的なビジネスジェットが機体の胴体後部にエンジンを配置しているのに対し、ホンダジェットは主翼の上にエンジンを配置するという従来の常識を覆すユニークなデザインが特徴です。

image 出典:ホンダ公式サイト
https://www.honda.co.jp/jet/innovations/01/

ーー主翼の上にエンジンを配置しているメリットを教えて下さい。

「1つ目は造波(ぞうは)抵抗を減らせることです。機体は音速に近づくにつれて、発生する衝撃波によって造波抵抗と呼ばれる大気から受ける抵抗が増えるのですが、エンジンの位置を最適化したことで抵抗を軽減しています。」

「2つ目はキャビン(客室)が広くなること。機体の胴体にエンジンがくっついた状態だと、重いエンジンを支えるための部品や構造によってキャビンが狭くなります。エンジンを胴体から切り離すことで、キャビンの広さを確保できます。」

「3つ目は、振動や騒音の軽減。エンジンがキャビンから離れた位置にあるので、振動や騒音が伝わりにくく、キャビンがより静かになります。」

速度アップと燃費向上を実現したカタチ

image 出典:ホンダ公式サイト
https://www.honda.co.jp/jet/innovations/01/

ホンダジェットは、独自開発の「自然層流翼」と「自然層流ノーズ」と呼ばれる2つの技術で飛行速度と燃費の向上を実現しています。

ーー「自然層流翼」と「自然層流ノーズ」について教えて下さい。

「飛行中の機体表面には、2種類の境界層(空気の層)が存在しています。一つは”層流”と呼ばれる抵抗の少ない剝離(はくり)しやすい境界層、もう一つは抵抗が大きいものの安定した”乱流”です。」

「抵抗の少ない層流をいかにして増やすかが航空力学の一つの課題ですが、ホンダジェットでは幾何学的な形をした翼とノーズによって抵抗を減らし、より燃費を良くしています。」

進化を続けるホンダジェット

image 出典:ホンダ提供画像(HondaJet Elite Ⅱ)

ホンダジェットはこれまで、HondaJetからHondaJet Elite(エリート)、そしてElite S(エリートS)、さらに現行モデル(※1)のHondaJet Elite Ⅱ(エリートⅡ)へと性能や安全性をより高めながら進化を続けてきました。

また、ホンダジェットより一つ上のカテゴリーでも、同クラスでは世界で初めて、給油なしで米大陸を横断できる航続距離を備えたモデル「HondaJet Echelon(エシュロン)」を現在開発中です。

ーー現行モデルのホンダジェットエリートⅡは従来機からどのような進化を遂げていますか?

「まず、燃料タンクが大きくなったことで航続距離が伸びたこと(※2)。次に、離陸重量が前モデルのエリートSよりも200ポンド(約91kg)増えたことで、より多くの荷物や燃料を載せられるようになりました。」

「また、エリートSから横風に対応したASASシステム(※3)を標準装備し、着陸時の安定性を高めています。加えて、オートスロットルを導入し、オートパイロットでも手動で行う必要があったエンジン操作まで自動で行えるようにしています。」

「ほかにも、着陸時の機体ハンドリングと安定性の向上を可能にする主翼へのグランドスポイラー搭載や、雲がある位置を自動で察知し、鮮明に把握できる新型の気象レーダーの搭載、パイロットの操縦機器のアップグレード、Wi-Fi機能の強化などさまざまな進化を遂げています。」

(※1)2024年11月時点
(※2)乗員乗客4名で2,865km(HondaJet Eliteから+204km)
引用:ホンダ ニュースリリース
https://global.honda/jp/news/2022/c221018.html
(※3)ASAS(Advanced Steering Augmentation System)
特定の天候条件下での運用性能を高め、パイロットの負荷を軽減するほか、機体運用の安全性をさらに向上させるシステム
引用:ホンダ ニュースリリース
https://global.honda/jp/news/2021/c210527.html

ホンダジェットを進化させる、飛行試験エンジニアの挑戦

image 出典:ホンダ提供画像

HACIの飛行試験エンジニアである荻原さんは、ホンダジェットの性能や安全性を確認し、改善するためのフライトデータの収集・分析などを行っています。

ーーこれまでに荻原さんが飛行試験エンジニアとして直面した課題や、解決に至った経緯を教えて下さい。

「フライトデータを収集・分析する上で課題になるのが、数値化できないものがたくさんあることです。例えば、パイロットが思う”飛ばしやすい飛行機”って感覚的で数値化が難しい。でも僕は、その感覚的なことも数値化することに興味があります。」

「以前僕は、ASASシステムを開発するプロジェクトにいました。ASASとは、操作の難しい横風を受けながら着陸する際に、自動で機体を安定させる補助システムです。横風は常にランダムなのと、パイロットが”こんなシステムが良い”という意見は感覚的で、数値化したデータを得ることが難しかったです。」

「そこで、パイロットライセンスを持つ僕は、休日に自ら小型機(セスナなどのプロペラ機)を操縦しながら、感覚的な”着陸時の操縦のしやすさ”を数値化する方法を追求しました。そして、風の強さと操作するペダルの動きの関係性に注目し、数値化していったのです。」

「課題の解決には大学で学んだ統計学が役立っています。大学で学んだことは、今の仕事で毎日のように活用していますね。」

組織として重視する「セーフティカルチャー」

image 出典:ホンダ提供画像(HACI)

荻原さんによると、飛行試験エンジニアとしての仕事は機体の開発や技術の向上に向けて大きな役割を果たす一方で、危険を伴う場面もあるとのこと。

ーーお仕事の中で、もっとも重視していることは何ですか?

「飛行試験を行う組織の一員として、重視しているのは安全性です。ただ、僕が勤務しているHACIでの考え方は、いかにして安全に行うかだけではなく、”これは危ないのでは”とか、”もう少し考えるべきでは”といった声を誰でもためらいなく上げられる組織づくりであり、それは”セーフティカルチャー”と呼ばれています。」

「フライトテストでは最悪な状況を想定して、速度制限を超えた飛行で機体に高い荷重を与えたり、乱気流の中を飛行したり、中には、意図的に片方のエンジンをシャットダウンしたまま離陸を続行するといったことも行います。」

「そのため、危険要因を事前に見つけ出してリスクを排除することや、“想定外“を想定内に持ってくることが求められ、関わるすべての人が意見を出せる環境が重要になるのです。」

「自分のような若手や、インターンシップで来た人、整備担当者、ほかの部署の人であっても、”このテストのやり方で大丈夫?” と思ったら声を上げて話し合えるカルチャーを大切にしています。」

飛行試験エンジニアとして実現したい未来

image 出典:ホンダ提供画像

ーー荻原さんがHACIから目指す、航空業界の未来とはどういったものですか?

「僕は昔から航空宇宙工学に興味があって、人が空を飛び移動することに貢献できることが、自分のキャリアにとって重要だと考えています。ホンダジェットを通して、皆さんが行きたい場所へより効率的に短時間で移動できる未来を目指しています。」

ーー飛行試験エンジニアとしての仕事は、未来をどう変えていくと感じていますか?

「これまでにホンダジェットから得たデータやその分析は、次世代機の設計に大きく役立ちます。まだ実機のない段階で理論やシミュレーションに基づいて飛行機を設計していくことには限界があるので、現行機を使っての飛行データの収集・分析、そしてそれを行うための飛行試験エンジニアの役割が不可欠なのです。」

「現行機による飛行試験データと、シミュレーションや風洞試験(※4)の結果を照らし合わせ、理論上の設計と実機の性能との関係性を分析することにより、次世代機の挙動をより正確に予測できます。」

「こうしたアプローチによって、性能や安全性を向上させた新たなホンダジェットの開発に取り組んでいます。」

(※4)機体表面の空気の流れを可視化させ、模型内部に装着した複数のセンサーからデータを採取し解析するなど、コンセプトの実証と空力性能の最適化を図る。
引用:Hondajet Facebook

(荻原 凱さんのキャリアストーリーや学生に向けたメッセージは後編で紹介します)
インタビュー後編:https://moov.ooo/special/newtonhub/article/02/

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    ホンダジェット技術者インタビュー(後編)「僕たちが技術を進化させている、そう思える仕事」

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